その536 空 2023.10.17

2023/10/17

 将棋はとんとわからないが、藤井聡太七冠の活躍は素晴らしいものがある。
この話を考えている間に彼は八冠を達成してしまった。
彼の頭の中は一体どうなっているのだろう。
私は、頭の中だけで、いわゆる“空”で
ああなってこうなってと先の図を考えることが苦手。
 
 だが日曜大工は割と好きだ。
小学一年の夏休みに引っ越しをした。
移る家はまだ出来上がっておらず、大工さんが何人も作業をしていた。
ガレージ兼物置小屋には板切れがたくさんあった。
子供用のノコギリでベニヤ板をギコギコ切り、
釘やボンドでくっつけて、ボートのようなものを作っていたと思う。
 
 今でもちょっとした小道具を作ることは好きだ。
病棟で文庫本などを置くキャスター付き本棚、ストレッチャーの雨よけカバー、
最近ではペーパータオルを下向きに取るホルダーの台、などいろいろなものを作ってきた。
 
 2021年、病院が改装されて診察室も新しくなった。
診察室の机に、患者さん用の杖掛けが欲しいと思った。
ホームセンターで売っている杖掛けは、かなり正確に狙って杖を押し当てないといけない。
コールセンターなどで使うヘッドセット掛けを応用したが、
杖掛けには弱弱しく、土佐弁で言う「ひぎゃす」な状態。
壊れたり、固定した机から外れたりする。
 
 クランプという木工などで使う万力のような道具があって、
万力の部分で診察机に据え付けて、ねじ穴のある背の部分に、
杖受けとしてC字型のプレートを固定してみた。
少々杖を強く立てかけても、引っ掛けても頑丈だ。
C字プレートはこげ茶色で、万力は机と同じ色に塗装した。
これが杖掛け、とすぐに分かっていただけるようで、作り甲斐があったと思っている。
 
 欲しいものを思い浮かべて、どのような材料で、大体の構造と大きさは、
という所までは頭の中“そら”で考える。
設計図というほどではないが、ラフなスケッチを描くと
何が必要でどう組み立てて、と手順が浮かぶ。
棋士たちのように、何十手、何百手も先のことは考えられないが、
形ができ始めてから浮かぶ構想もある。
素人が木やアクリル板を切ると誤差が生じる。
穴をあける位置は組み立てながら決める方が失敗は少ない。
箱モノを作って、しまった板の厚さを考えていなかった、なんていうこともあるし、
材料を買いに行って、おや、もっと簡単に応用できるものがあるではないか、
手順を変更、といったこともある。
 
 物事を進めるにはPDCA cycleと言われる。
Plan, Do, Check, Assessmentなのだが、
私の日曜大工は「必要と思って(Imagine)」、「作って(Make)」、
「作りながら調整(Adjust)」、「使って便利(Convenient)」。
つづめるとIMA Convenient, 「イマ、コンビニ」のサイクル、とでも言おうか。
このサイクルのうち最も大切なのはImagineだろう。
藤井八冠の3倍ほどの年齢なのだが、
必要と思う心、柔軟な発想が若者のように湧いてくるようでありたいと思う。